前回、5月分は非農業部門雇用者数(NFP)が市場予想の前月比+32.6万人を上回る+39.0万人を記録。4月分の数字も速報時点での+42.8万人から+43.6万人に上方修正された上での強い伸びとなっています。失業率は3カ月連続での3.6%と市場予想の3.5%に届かず。ただ、労働力人口が33万人増加しており、労働参加率が62.3%と4月分から0.1%ポイント上昇しているため、強い数字という印象は変わらずとなりました(労働参加率が上昇すると、一般的には失業率が一時的に悪化します)。
内訳をみますと、レジャー&ホスピタリティ部門(カジノ・劇場などのアミューズメント部門、ホテルなどの宿泊部門、レストラン・バーなどの飲食部門)が前月比+8.4万人と依然力強い上昇となっています。2020年春のパンデミック時に約820万の雇用を失った同部門は、コロナ禍一服後は順調な雇用の回復を見せています。中でも飲食部門は+4.61万人と全体を支えました。とはいえ、レジャー&ホスピタリティ部門全体の雇用者数をパンデミック前と比べると、134.5万人まだ足りませんので、大幅な雇用増がまだ続く余地はありそうです。
小売業は今回雇用減となりました。こちらもパンデミックにより雇用が大きく減った部門ですが、すでにパンデミック前の水準を超えています。前回は-6.07万人となりました。
サプライチェーン問題による半導体不足などから生産が抑えられている自動車及び同部品部門も前回雇用が減少しました。同問題の深刻な状況が意識されるところとなっています。
強さが目立ったのが、運輸及び倉庫部門の+4.7万人。一時は人手不足に悩んでいた同業界ですが、部門全体の賃金上昇などが目立つ中、順調に雇用が回復しています。
建設部門も+3.6万人と強い伸びを示しました。米金利上昇が住宅投資などに与える影響が懸念されていますが、住宅建設部門の雇用も伸びており、今のところ堅調な動きが続いています。
その他目立っているのがテンポラリーヘルプサービス部門の+1.93万人。同部門は雇用全体の先行指標といわれており、好印象を与えています。
今回の予想はNFPが+25万人。失業率が3.6%となっています。前回の雇用者数は1億5168万人と、パンデミック前の雇用者数と比べて82万人程度少ないところまで雇用が戻っています(なお、季節調整をかける前の数字でみると、パンデミック前の雇用者数を前回ですでに80万人程度上回っています。)。そのため、流石に雇用者数の増加幅は抑えられる見込みですが、しっかりした数字が見込まれています。内訳の状況を見ても十分に期待できる雇用増で、予想前後の数字が出てくると米国の雇用市場はまだ堅調という印象につながりそうです。
今回の雇用統計で雇用者数や失業率と同じく注目を集めそうな平均時給は前月比が前回と同じ+0.3%、前年比が+5.1%となっています。前年比は3月分が+5.6%となった後、伸びが鈍化してきています。物価は消費者物価指数が前年比+8.6%、PCEデフレータが+6.3%となっており、物価の上昇に賃金の伸びが追い付かないまま、伸びが鈍化している状況。予想をさらに下回るような伸びにとどまると、物価高が家計に与える影響を警戒する動きがさらに強まりそうです。
雇用の最大化は物価の安定と並ぶ米FRBの二大命題です。雇用市場が堅調に推移することは米FRBの大幅利上げへのハードルを下げる形になり、ドル買いの材料となります。しかし、雇用の伸びが予想を下回った場合や、平均時給の伸びが鈍く、今後の家計消費への悪影響が意識されるような場合は、米国のリセッション懸念が高まる形でドル売りの材料となります。
市場は米FRBの積極的な金融引き締め姿勢とリセッション懸念の中でかなり不安定な動きを続けています。今回の雇用統計次第では一方向の大きな動きにつながる可能性があるだけに要注意です。
MINKABU PRESS 山岡和雅