これまでの積極的な利上げもあり、当初は今月のFOMCについては0.50%の利上げにとどめるのではとの見方が大勢となる状況も見られました。
しかしパウエル米FRB議長は先月26日のジャクソンホール会議での講演において、約40年ぶりの水準となっている物価高を受けて「やり遂げたと確認するまでは利上げを続ける」という姿勢を表明。1日のISM製造業景気指数、6日の同非製造業景気指数、2日の米雇用統計などの重要指標が軒並み強めに出たこともあり、市場では今回も0.75%の利上げを続けるとの期待を強めています。
短期金利先物市場動向から見た利上げ割合を示すCME FEDWATCHの直近の状況を確認すると、0.5%利上げと0.75%利上げが拮抗していた時期も見られましたが、ここにきて0.75%利上げ期待が強まっています。特に8日にパウエル議長が積極的な利上げの継続を改めて表明、同日ハト派(利上げに慎重)の代表格の一人であるエバンス・シカゴ連銀が0.75%の利上げに前向きな姿勢を示し、FOMC内のタカ派シフトが鮮明となったことで、市場は0.75%を織り込みに行く動きを強めています。
こうした中、市場は13日に発表される8月の米消費者物価指数(CPI)に注目しています。利上げの背景にある物価高に落ち着きが見えてくるようだと、今回はともかく次回以降の利上げについてはある程度利上げ幅を抑えてくることが考えられます。また年内もしくは来年の早い段階で利上げ自体はストップすると期待されていますが、そのためにも物価が落ち着く兆しを見せるのかどうかが大事なポイントとなります。
前回7月の米CPIは前年比+8.5%と6月の+9.1%から大きく鈍化しました。市場予想は+8.7%で鈍化自体は見込まれていましたが、予想を超える鈍化でした。変動の激しいエネルギーと食品を除いたコア指数は前年比+5.9%と6月と同水準。こちらも市場予想の+6.1%を下回る水準となりました。前月比も全体が+0.0%、コアが+0.3%と市場予想の+0.2%、+0.5%を下回っており、全般に予想に比べて物価の伸びが穏やかとなりました。
背景にはガソリンをはじめとするエネルギー価格の伸び鈍化があります。7月のガソリン価格は前年比+44.0%と、高水準の伸びを示していますが、6月の+59.9%と比べると15%ポイント以上伸びが小さく、全体の鈍化につながりました。米エネルギー情報局(EIA)の調査をみると、米国のガソリン小売価格は6月の1ガロン当たり5.032ドル(全米全種平均)から7月は4.668ドルへ7.2%も低下しています。
一方家計に響くもう一つの懸念材料である食料品は前年比+10.9%と6月の10.4%からさらに伸びています。特に家計用食品が+13.1%と6月の+12.2%から伸びており、こちらは警戒感を誘うものとなりました。
住居費の伸びも強まっており、少し落ち着いたとはいえ対応が必要という印象を与える結果となっています。
今回の予想を見てみると、前年比+8.1%とさらに伸びが鈍化する見込みです。EIA調査による8月のガソリン価格は1ガロン当たり4.087ドルと今年2月以来の低水準。7月と比べて12.4%の大幅ダウンとなっています。この結果が全体の物価の伸びを押し下げると期待されています。もっとも、これまでのエネルギー価格の上昇を受けたコスト高による広範な財・サービスの価格上昇傾向は継続すると見られています。コア指数の予想は前年比+6.1%と前回の+5.9%を上回るものとなっています。
こうした物価の鈍化は米国の家計や企業にとって、うれしい傾向です。米FRBへの利上げ圧力もある程度は緩和されると期待されます。もっとも水準的にみるとまだ8%を超える物価上昇であり、今月のFOMCに関しては0.75%利上げの予想を大きく後退させるような材料とはならないと見られます。
ただ、次回以降の利上げペース鈍化への期待を強めることから、ドル買いの一服材料と成る可能性があります。また、予想をさらに下回る伸びにとどまった場合、ドル売りが大きく進む可能性もありそうです。
MINKABU PRESS 山岡和雅