前回8月分の米雇用統計で非農業部門雇用者数は前月比+31.5万人と、市場予想の30.0万人を上回る伸びとなりました。7月分の52.6万人と比べると伸びが落ち着いていますが、これは7月分が直近の中でも強すぎた感があります。どちらかというと、相当強かった7月の数字からの前月比でも30万人を超えたという状況が、米雇用市場の底堅さを印象付けました。
失業率は7月分の3.5%から3.7%に悪化しました。しかしこれは7月と比べて労働力人口が一気に78.6万人も増え、労働参加率が7月分の62.1%から62.4%まで大きく上昇したことが背景にあります。雇用市場が堅調な推移を見せることで、これまで求職活動を行っていなかった層(年配層や主婦、さらには職探し自体をあきらめていた層)が仕事を探し始め、一時的に失業率が悪化する現象で、どちらかというと雇用市場の堅調さを示すものです。
雇用者の業態ごとの内訳を確認してみましょう。
パンデミックによる雇用の減少が最も顕著だったこともあり、その後の回復期に大きく雇用が増加し、雇用統計全体の大幅増傾向を支えてきたレジャー&ホスピタリティ部門は前月比+3.1万人、同部門の中でも雇用の増が目立っていた飲食部門は+1.82万人と、堅調ではありますが、7月分の+9.5万人、+7.75万人と比べてかなり少ない伸びにとどまりました。
ヘルスケア・社会扶助部門は+6.15万人と7月の+9.37万人よりは伸びが鈍化も、大きめの伸びを維持。日本同様に介護部門などを含め人材の足りない部門だけに、堅調な雇用の伸びが続いています。
小売部門が+4.4万人と7月分の+2.91万人以上の伸びに。一方で7月は+2.46万人となった運輸・倉庫部門が+0.48万人にとどまっています。
サプライチェーン問題を抱え、フル稼働生産が進まない自動車部門が-0.19万人とわずかながらマイナス圏ですが、その他は総じてプラス圏。突出した業界が雇用を支えているわけではなく、総じて雇用市場がしっかりという印象を与える形になっています。
関連指標を見てみましょう。
前回8月分の米ISM製造業景気指数は52.8と市場予想の51.9を超え、7月分と同水準になりました。生産が2020年5月以来の低水準に落ち込んだものの、新規受注が上昇し、3カ月ぶりに好悪判断の境となる50を超える51.3となり、全体を支えました。また、もう一つ力強さを見せたのが雇用部門で、7月の49.9から54.2まで一気に上昇しています。今回の予想は52.5と若干の鈍化見込み。今回一気に回復を見せた新規受注と雇用が少し鈍化するとの見通しになっています。
8月のISM非製造業景気指数は56.9と7月の56.7から55.3に鈍化するとの見通しに反して小幅ながら上昇しました。製造業同様に新規受注と雇用が支えており、新規受注は7月の59.9から61.8の高水準に。雇用は7月の49.1から50.2と、製造業に比べると伸びが小さいものの、好悪判断の境となる50を超えてきました。今回の予想は56.4と小幅鈍化見込みです。
計算方法などを変更して、3カ月ぶりに発表したADP雇用者数は前月比+13.6万人と市場予想の+29.5万人よりもかなり小さい伸びとなりました。前月比+31.5万人、ADPの対象となる民間部門だけでも+30.8万人となった雇用統計本番と比べて乖離が大きくなっています。今回の予想は+20.5万人と伸びが大きくなる見込み。今回も雇用統計本番との乖離が目立つようだと、先行指標としての注目度が低下する可能性があります。
こうした状況を踏まえて今回の雇用統計です。市場予想は非農業部門雇用者数が+25.0万人と前回から伸びが鈍化も、水準的には悪くありません。失業率は前回と同じ3.7%となっています。平均時給は前月比が前回と同じ+0.3%、前年比が前回から小幅鈍化の+5.1%となっています。
総じて堅調という印象で、予想前後の数字であれば、米国の大幅利上げ期待を大きく変化させるものにはなりにくいという印象です。予想以上に伸びが鈍化した場合や、平均受給の落ち込みが目立つような場合は、要警戒です。
MINKABU PRESS 山岡和雅