前日のパウエルFRB議長のタカ派な講演を受けても、米株式市場が下落しなかったことも大きな要因と考えられる。その動きを見て、市場もリスク回避の雰囲気を一服させ、積み上げたドルロングを調整したのかもしれない。
ただ、このドル売りの動きが長続きする保証はなく、世界的な成長鈍化に伴うリスク回避から、ドルは優位を保つとの指摘は根強い。今週のドル円は145円寸前まで急上昇していたが、失速した格好となっている。しかし、まだ上値を目指す流れに大きな変化はないものと見られている。
この日はウォラーFRB理事やブラード・セントルイス連銀総裁の発言が伝わっていた。いずれも、9月FOMCでの大幅利上げを支持する意向を示している。市場では0.75%ポイントの利上げ期待が高まっているが、その期待を裏付ける内容ではった。
しかし、きょうの市場の反応は鈍い。市場は0.75%ポイントの利上げを既に90%近く織り込んでおり、サプライズはないようだ。なお、FOMC委員からタカ派な発言が相次いでいるが、9月のFOMCは20、21日に開催される。その前々週の土曜日からFOMC委員は発言を控えるブラックアウト期間に入り、それは明日からとなる。
ユーロドルも買い戻され、ロンドン時間には一時1.01ドル台まで上昇する場面も見られた。NY時間に入ると1.00ドル台半ばまで伸び悩んでいる。
市場ではECBのさらなる大胆な利上げを見込む声が増えており、ECBはこの先、合計で1.75%ポイントの追加利上げを実施し、今回の利上げサイクルの着地点は2.50%に達するとの見方が出ている。来月も0.75%ポイントの追加利上げが実施され、12月に0.50%ポイント、そして、来年第1四半期に0.25%ポイントの利上げが実施される可能性があるという。市場は来月の0.75%ポイントの利上げの確率を60%で織り込んでいる。
そのような中、上値でのショート推奨の声も聞かれる。0.97ドルを下値ターゲットとし、ストップを1.05ドルに設定すべきだという。この見解の背景には、「スタグフレーションの環境下での利上げは通貨を支えるには非効率」との考えがあるという。なお、目先は9月25日のイタリア総選挙、月末のユーロ圏消費者物価指数(HICP)、そして、欧州エネルギー価格の動向を重要なカタリストとして挙げている。
ポンドドルも買い戻しを強めた。ロンドン時間には一時1.16ドル台半ばと、8月31日以来の高水準まで上昇する場面も見られた。エリザベス女王の崩御に伴い英国は10日間の喪に服す期間に入っている。英政府関連の一部業務も停止しており、英中銀もこの日のインフレ意識調査を延期したほか、来週15日に予定していた金融政策委員会(MPC)の結果発表を1週間延期し、9月22日に変更した。
トラス英首相が打ち出した光熱費抑制策により、家庭の電気ガス料金に上限が設けられたことで、今後数四半期に英経済が景気後退に陥る可能性は薄れたとの見方が出ている。今回の措置によって、平均的な家庭は今後半年間、過去半年間よりもエネルギー料金の負担が軽減され、目先のインフレ見通しは改善するとしている。英消費者物価指数(CPI)は7月の10.1%から10月に10.8%のピークまで上昇し、その後は緩和に向かうとも指摘。また、家計の実質可処分所得はすでに底を打ち、景気後退をなんとか回避できるだけの伸びが見込まれるという。
ただ、政府の光熱費抑制策の財源をどう賄うのかといった懸念材料も台頭している。少なくとも一部は英国債で賄われる可能性が高く、それはポンドにとってマイナス材料との指摘も聞かれた。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美